安須森散策 その1

宜名真トンネルの暗いドームを走り抜けると、右手に畑地や原野が広がるところに至る。その原野の中に深緑色の四連の岩山が目に飛び込んでくる。

最初の三連の峰はラクダのコブのようにも見える。右側に回り込むように進むと連山の姿か変化し、やがて四連の峰の全体像が鮮やかに浮かびあがる。
南側の三つの峰は小さなコル(鞍部)で接してひとつづきの山脈をなし、北側の峰だけがやや独立したおもむきを伝えている。

地元の古老は、四連の岩山を南から順に「シヌクシ」・「アフリ」・「チザラ」・「イヘヤ」と呼んでいる。
聖なる杜として数多くのオモロにも謡われ、琉球創世神話のなかで、いの一番に神のつくり給うたと記され、地元では「黄金森」(フガニムイ)とも称される辺戸御嶽こと「安須森」(アシムイ)である。
ここには、他の御嶽によく見られるような大木や年輪を重ねた古木はあまり見られない。大木古木のかわりに萌えいずるような若木の力がみなぎるだけである。

古老の伝える話では、かつては大木古木が競うように天を突き、密林をなして聖地を守護していたというが、戦後、地元辺戸の人たちの手によって大木古木は資材として伐り出されて売却され、復興資金に充当したそうだ。
心のよりどころとして世代をつないで守り育ててきた聖地の守護林さえも、自らが生きるためにあえて伐り出さなければならなかったのであろう。
もとより、木を伐ることはおろか、みだりに立ち入ることさえも厳しく禁じられていた霊地であった。

〔次回 6月20日|安須森散策 その2 拝所点描〕

参考書籍:沖縄の拝所 沖縄の聖地

カテゴリー: 御願めぐり | タグ: , , , , , |

スポンサーリンク