クボウの御嶽素描 その1 イビ

祭場の右後方には、頂部にむかってせり上がるような急峻な斜面に張りめぐらされたロープが見える。参詣者はそのロープをたぐり寄せるようにして頂部のイビをめざす。参詣者が踏みしめた跡が、参道様を成している。

蛇行しながら木と木をつなぐロープを便りに14、5分も登ると、中腹あたりに拝所らしきものが見えてくる。一息つくにはほどよい場所でもある。
本来の拝所ではないのだが、いつの間にか拝み場所となったのであろう、参詣者がうちすてた線香の束が目につく。

頂部近くになっても峻厳さは一向に変わらない。露出する岩はいよいよ鋭く異形になってくる。しかし、御嶽の命名の由来ともなり、競うように天をついていたといわれるクバの木は見当らない。 しばらく歩を進めると、天空に向って開かれたような巨岩だらけの頂部近くに達する。

ふもとから眺める古木に包まれた柔らかな森のたたずまいとは裏腹に、鋭く切り立った岩の頂が目の前に現れる。鈍い光を放つ岩は、鋭く裂けて聖なる場所の冷厳さを伝えてくれる。
頂の下方の巨岩の一つを背にして自然石を積み回し、石の香炉の置かれた拝所がある。クボウの御嶽のイビである。祭神は「ワカサツカサノ御イベ」という。

〔次回 3月26日|春秋二回の例祭〕

参考書籍:沖縄の拝所 沖縄の聖地

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